>>similarity(真メグ+仄かに大嶋) 基地建物入り口を入って右手側、仮眠室と簡易台所を兼ねた給湯室の更に先、壁に寄せてある長椅子で、隊服と私服が一人ずつ白と黒を数え終わった。 「ほー、詰まらんな」 「詰まらんて……まあ面白くはなかけど、普通珍しい言うか、むしろおかしかね」 関西人の感覚は判らない、否、目の前にいる関西人の感覚は判らない。 コンビニのおにぎりを片手にした嶋本と盤が盤を挟んで睨み合うこと小一時間で三回戦目。二色の丸い石を使い1色の石で相手を挟み勝敗を競うボードゲームは、一見のルールの単純さとは逆に意外に頭を使う。ボードゲームなど得てしてそう言うものだが、その割には三回とも早い時間で決着を見せた。三戦引き分け黒白丁度半々。 互いに相手をそう待たすことなく早打ちしていたのだが、別に勝負を早くつけようとか面倒だとか思っていた訳ではなく、そもそも、誰が持ち込んだのか机に放置してあったオセロ盤を嶋本が見つけ、彼の昼御飯の片手間に盤はぱちりとひっくり返しあっていただけである。嶋本も盤も、長考無しでの判断が常では無いが、なぜか面白いように手が進み気が付けばたったの十数分で初回引き分け。まだ時間があるからとそのまま続けて同結果に至り。 「引き分けて、オセロでも持碁言うんね」 「知らん、お前囲碁打てたんか」 少しだけと答える盤に、まあトータルお前の勝ちかと嶋本が肩を竦めた。不思議そうに首を傾げる盤に、俺が白やったやろ、と事も無げに告げる。 引き分け時にいつも黒に軍配が挙がる訳では無く、この場合、先手後手を決める伏せ石を外した盤の代わりに、嶋本が引き分け時の勝利ではなく打ち順を選んだからであり、もし引き分け時の勝利を望んでいれば嶋本の勝ち。伏せ石での選択権は嶋本が二回、盤が一回。双方打ち順を選択したのでイコールその逆が勝利数。 多少端折って嶋本が説明すると感心したように盤が頷いた。 「そんなルールあったとねえ。まあ滅多に使わんのやろうけど」 「滅多でも何でも、半々なんやっぱ詰まらんわ」 「真面目にもう一回してみると?」 「お前負けたら腕立て伏せ百回」 「うわ、何それ酷かばい」 「俺が負けたら自販機でコーヒー奢ったる」 引き分けになる様に考えて打っていたのならともかく、そんな意図は双方欠片も無かったし勝ち負けすら意識していない、ついでに言えばメリットも無く大体休憩時間にまで頭を使うのは面倒で疲れるだけだ。何にしろ一度ならず三度の引き分けは珍しいのかおかしいのか、それを詰まらないと言うのは湯のみの茶を啜る元三隊副隊長で前三隊隊長、更に現三隊副隊長と言う階級だけすれば浮き沈みしている嶋本だった。尤も本人がそれに眉を顰めているかと言えば全くそんなこともなく。ついでに、その三隊の現隊長は二年前インドネシア派遣から帰国した真田で、プラスして言えば盤は三隊所属ではない。 非番の今日、一駅隣の真田のマンションから自宅へ帰る途中に寄ったコンビニで、最寄り駅が同じになる為、わりと盤のマンション近くに嶋本と居住している大羽に捕まり、兵悟に用事があるからとそのまま無理矢理基地まで連れて来られていた。 その大羽はと言えば、簡易給湯所で昼食にありついている兵悟と話し込むばかりで、盤としては手持ち無沙汰で仕方が無い。そこを、暇潰しに付き合えとこちらはコンビニ購入の昼食を手にした嶋本に掴まったわけである。因みに盤は背を向けているので見えないが、嶋本からは入り口付近が見える給湯室から時々二人の話し声が漏れていた。 「そう言えば、お前休みの日まで何しに来たんや」 互いに石をケースへ戻しながらボックス型に四石置いて、これまで同様嶋本が石を伏せる。当てた盤が後手を選び今度は少々時間を掛けて石を打ち始めた。 「好きで来た訳じゃなか。嶋本さんの大羽君が兵悟君に用がある言うから無理矢理」 「ああ、そういや返すもんがあるとか言うとったな。神林は官舎やし、基地に来る方がそら早いわ。言うか俺のは余計や」 「またまた、惚れとうのに。やったら嶋本さんに頼めばいいやなかとね」 「伸すぞ阿呆。上司を使おうなんええ度胸や、あの広島ひよこ」 その物言いからすると、大羽も一度頼んだらしいがおそらく激しいボディトークで断られたのだろう。ひよこ時代、もうちょっと人の事考えろだの、嫌われているのか苦手とされているだろうと思っていた大羽が、嶋本と真田を交え始めた頃からどうにも好印象で盤に接してくるようになっている―――因みに、黙っている嶋本ではなくて、ちょっと手の早い嶋本が可愛いのだとのたまわれ、これも恋は盲目かと思うのは結構日常の話であり―――。 盤にしてれみれば、何かをした覚えは無いのだが大羽は別に感じるものがあるらしく、きついと言われる口調で邪険にしても強引に寄ってくる。おかげでひよこを卒業して早三年、隊が違うわりに元々煩いほど近付いて来ていた兵悟と同じ位に、話すようになっていた。 「でも普段甲斐甲斐しいほどばい、大羽君」 「お前も見習え」 先手の黒が固まろうとするのを邪魔しようと白い石が動く。序盤戦、二人とも定石など知らないが基本となる、要は相手の打ちたい場所に打ち込んでいた。一応賭けの体裁を取っている為考えて打っているのだが、手順は前の三戦に似たものがある。給湯室から聞こえていた声も耳に入らず、だが互いの声だけはしっかり聞いていた。 「大羽君もしかしてそっちの気あると?」 「俺が苛めたがりみたいな言い方すな。五十嵐機長に冷たくされて頬染め取った奴が」 「やって美人さんやし、最初気付かんかったけどあん人にちょっと似とうね」 組んでいた足を盤が入れ替えて一手。手数を増やさない様に打った中割りは黒に阻止された。それを打った嶋本も、給湯室が見える側へ向けた身体を支える右手に疲れたのか体勢を起こして右手をぶらぶらと振る。その仕草に笑うこともなく、盤は下ばかり向いて凝ってきた首を横に傾けて鳴らした。 改めて盤を覗き込み、ぱちりぱちりと打ち合って行く。 「軍曹さん性格悪か、先回りばっかばい」 「コーヒー代が勿体無い。上司に向かって性格悪いなんお前くらいや」 「正直やもん」 よう言うわ、と小さく笑って山を築き始めた白を阻止しようと石を打つ。最初は掛かっていた時間は段々と短縮されつつあった。上手い具合に隅を取った白の代わりに、それとは直線上にある隅を黒が打たれ数枚白石が返る。 「ま、お前は柔らかあなったな」 ひよこの時も行軍の時も、他のひよこ―――例えば真田に釣られて疾走とは言えないがそれなりの速度で走って来た兵悟や―――と違う意味でリタイアしそうだと思っていたが、結果一位をタイムも好成績で記録した。あれから一年、嶋本の手元に居た兵悟も、他隊へ配属された盤も大羽も佐藤も残っていた頼りなさを半分は確実に削られ、三年後の今は正隊員として何とか認めていい程度にはなっている。こと性格に難ありと思っていた盤は、色々な意味で変化を見せていた。それが仕事で経験したこと故のみとは思わない。 「気持ち悪いこと言わんといて。オイは一筋の人おると」 「惚気はお前が勝ったら聞いたるわ」 「それ不公平やろーもん。オイ結構な頻度で大羽君から聞かされとうよ」 盤の一言に、重なるようにがたりと大き目の音を立てて、基地入り口のガラス戸が引かれるが、嶋本の耳にも盤の耳にも聞こえていない。集中一直線に碁盤の様にも見える白黒に頭を使っていた。 「……そういやあれ上手く作れるようになったんか」 「あ、その間、もしかして照れとうと?うわー、嶋本さん可愛かねー」 「二度と教えたらん」 「済みませんばい。煮付け、どうにも甘くてオイは構わんけど真田さん好かんみたいし」 砂糖入れ過ぎかね、と呟いた盤の脳裏に、まずいとは言わなかったが微妙な表情をした真田の顔が浮かび上がる。味の好みなど付き合い始めて三年間、聞いた事などなかったが、どちらかと言えば味付けは甘さは控え目がいいらしいと気付いたのはいつだったか。 「多分な。みりん入れとんのやったら、砂糖なん俺はなくても充分や」 相手の手数が少なくなるようにと互いに思考しつつ回転速度だけが上がり始め、三十分辺りで既に終盤戦に入っている。結局もう一つの隅もストナーズトラップで黒白二石ずつ、確定石もざっと見そう変わらない。 「そう言えば、大羽君は料理せんとね」 「ああ、あいつな。広島風お好み焼きとか、やっぱり美味いわ」 家で仕込まれたと自信満々で焼く大羽に、嶋本がレスキューもこれくらい―――胸を張って出来るものは出来ると言える程に―――なってくれと思ったのは過去の話だ。まあ仕方無いと思いつつ、変なところで押しが強いくせに小心な奴だとは胸の内である。 「モダン焼きとどう違うんか判らんね」 「あいつの前でそれ言うてみ、延々講釈垂れられるわ。そういや広島ででも自宅で作るのは関西風が多いらしいで、っとこれで最後や」 蕎麦の所為で上手く中まで火が通らんらしい、と付け加えながら互いに石の数を数え始める。が、数を増やす内にその視線が段々確かめる様なものになって行く。念の為に二度数えなおした盤が視線を上げると、同じく数え直していたのか同じ様に顔を上げた嶋本の、何とも表現し難い表情に当たった。 こう言う顔しとうと、童顔でも生徒には見えんばい。 眼鏡外したらええ線行っとんのに、まあ救難に容姿は無関係やな。 互いに、勝負とは全く関係の無い顔の造形について考えているなど当然知る由も無い。ただ、額が触れそうな至近距離で見合っていた二人の、盤の肩が唐突に後ろへ―――乱暴ではなかったがそれなりに勢いを持って―――引っ張られた。 「お、わっ――――――何、て真田さん!?」 「何や盤―――あれ、隊長。早かったですねえ、おかえりなさい」 「昼食を誘われたが断ったんだ、ただいま。何だリバーシか」 体勢が崩れる程ではないが驚きはある。だが、突然肩を引かれたことなどよりも、その強さに少し顔を顰めながら盤は小首を傾げた。 「オセロと何が違うとね」 「ほとんど似た様なものだが。取りあえずオセロは登録商標で日本の商品名だ」 突然の真田登場に驚きはしたものの普通に挨拶をする嶋本と、会話を続ける眉目秀麗な顔には、普段とどこにも変化は見られない。ただ、いきなり盤の肩を引いた手には未だ力が込められている。少々痛いと思っている盤を知ってか知らずか、嶋さんと呼ぶ声に嶋本の身体が前屈みから起こされると同時に真田の手もあっさり緩められた。怪訝そうな顔をしている盤を、僅かにばつの悪そうな顔をして真田が口を開く。 「悪かった―――来ていたのか」 「え、や、謝られる程痛かったわけやなかよ……まあ大羽くんに付き合って。朝スーツやったんね」 「そう言えば言ってなかったか、おはよう。午前は官庁へ用事だった」 「……おはようございます。ああ、昨日言うとったね」 基地長室にでも呼ばれたのか、昼休憩中とは言え職場であるので真田の姿を見なくとも探そうなどと思わなかった、嶋本とボードゲームに興じていて思えなかったのだが、本人はそもそも基地にいなかったらしい。行き先を言われてみれば昨晩、明日の午前は所用で官庁へ行くと言っていた気もする。非番の盤を起こさずに短いメモだけ残して出勤した 真田は、今着ているシングルスーツを纏って出て行ったらしく、少々惜しい―――スーツ姿は滅多に見ないので―――。気遣いは嬉しいが起こしてくれてもよかったと、勝手なことを考える盤の胸中など知る訳も無く、真田はじっと見ていた盤面から顔を上げて、成る程と呟いた。 「引き分けなのか」 せっかく黙っていたのに、むしろこのまま流れてしまっても良かったのに。 半ば引き攣った様な顔で真田を見上げる盤と嶋本に、理由など知らない真田が首を傾げる。同じく状況など、兵悟と話していた為に全く知らぬ大羽が―――嶋本へ声を掛ける前にその兵悟と分かれたのか―――独り真田の横から二人の顔を覗いた。 「どうしたんじゃ、嶋さんに盤も。変な顔して」 「変な顔は余計ばい」 「お前の凶悪面のがよっぽど変や」 決して悪気があった訳では無く。事情が判らないこともあり、一応心配して尋ねたのに、真田を向いていた二対の瞳がそっくり同じ様に眇められて大羽を睨んだ。 「そんな睨まんでもええじゃろ」 外見に反して口の悪い、因みに大羽はその逆であるが、二人に睨まれると結構怖い。大羽自身、嶋本と盤は元教官とひよこ以上に妙に気が合っている、と思うし、嶋本と真田が比較的親しいこともあって盤に連絡を取ったりすることが多いことは確かだ。気が合っているどころか性格が似ているところがあると思うことも少々あるが、何を言われるか判り切っているので胸の内だけに秘めている。だが、まるでそう思っていることが知れてしまったかの様に、眼光が半割り増しできつくなった。 「すまん……」 一応の謝罪に、これまた揃って大羽から二対の視線が外される。たださすがに大人気ないと判っているのか、嶋本が、もう用の無くなった石を片付けつつ、変な顔をさせる切っ掛けになった真田へ事情を話し始めた。 「いや、ま。実は四回目なんですわ」 「ああ、それでなのか。凄いな」 「何が凄いんです?」 そう驚いた顔をしないのは、肝心の部分を明かしていないからで、嶋本同様こちらも石をケースに戻している盤が理由を明かした途端、片頬を引き攣らせた。 「鈍かねえ、大羽くん。勝敗に決まっとうもん」 「ほいじゃったら、引き分けが四回目言うことか」 「いっそ気味悪い」 溜め息を吐く嶋本が、頬を引き攣らせただけでなく物言いたげな大羽の様子に気付く。嶋本に察されたことに大羽が慌てて自分の顔のまずさを繕ったが、それを見逃してやれるほどの遠慮を、嶋本は大羽に対して持ち合わせていない。 「何や大羽、何かしら言いたげやないか」 「いや……なんでもないわ」 「嘘吐くんやったらもっと上手く吐くんやな」 俺に隠し事なんや十年早い。そう言って腕を伸ばして胸倉を掴んだ嶋本を、真田が止めた。 「多分大羽も俺と同じことを思ったんだろう」 「真田さんと?」 大羽の胸倉を掴んだまま、嶋本と盤が顔を見合わせる。次いで、屈んでボードを見ていた真田のシャープな横顔をまじまじと見遣る二人に遠慮するでなく、さらりと発言した。 「思考パターンが似ている」 うわ、と大羽が小さく声を上げたが、嶋本も盤も真田を凝視している。低調子な雰囲気に気付いたのか、本日二回目のどこか責める様な視線にさすがにはっきりと疑問を呈した。 「どうした二人とも、妙な顔をして」 「―――いえ、その」 「……世の中には思ってても黙ってた方がええこともあるばい」 「それは済まなかった」 変な顔と妙な顔では何が違うのか。嶋本と盤の態度に大羽の頭にその疑問が虚しく過ぎるが、単純に真田と大羽が違う人間である故にと言う答えしかない。仮に大羽がいくら頑張って真田並みのレスキュー技術と判断とを身に付けても、大袈裟に言えば終生変わらないだろう。真田は二人に睨み付けられる訳でもなく反対に視線を逸らされている。 色々あるんじゃろうけど、真田さんは特じゃ、とこっそり大羽は思いながらも、自分だからこそ見れる嶋本がいることを決して忘れている訳では無いので、変わりたいとは思わない。それよりも、いい加減掴まれ続けた胸倉のおかげで呼吸が多少苦しくなり、無理に屈まされた腰は痛い。たが放してくれと目で訴えても肝心の嶋本は大羽を見ていなかった。 「あんまり気味の悪いこと言わんで下さいよ、隊長」 「勤務時間中に嶋本が遊ぶとは思えない。僅かな時間で偶然とは言え意図せず引き分けになるのなら、そう考えてもいいと思うが」 「うわ……嬉しくなか」 「それは俺の科白や石井君」 言いながら、嶋本は腕に嵌めている時計を見て時間を確認すると、大羽から手を引きその胸元を軽く叩いて、あっさりと長椅子から立ち上がる。多分に謝罪を込めてぽんと叩かれた胸元に、大羽が緩めそうにしていた顔をねめつけ、さっさと帰れと言い捨てると、くるりと真田と盤の方を振り向く。 「帰らはったばっかですし、こっちは大丈夫ですんでゆっくり着替えて来て下さい。あと昼まだなんですよね、炊飯器もう残っとらへんと思いますんで、出前取りますわ」 「判った、ありがとう。電話は自分で掛けるからいい、早めに行く」 軽く頭を下げ待機室へ向かう嶋本の足早に歩いて行く後ろ姿を見遣る大羽の耳に、先刻まで話していた兵悟が待機室から嶋本を呼ぶ声が聞こえる。ほんまにいつでも元気のええ奴じゃ、と暢気な感想を抱きながら、自分と同じ様に嶋本を見送っている真田達へ視線を向けると、不思議な表情で以って真田を見上げている盤と、珍しく大羽にも判る程複雑そうな顔をした真田がいた。 「どうしたんね」 「いや、何でもない。気にするな」 「ふうん」 世間では一番説得力の無い科白だが、真田が言えば彼の普段の言動ゆえに別である。だからこそ盤も気に留めず複雑そうなそれを流したが、なぜか大羽はそのまま流せずどうにも引っ掛かった。本当に何でもなければ、気にするな等と言ったりするだろうか。おまけに、大羽自身早々読み取れぬ表情筋の変化を読み取った直後であり。 そう言えば、自分がまだ給湯室で兵悟と話していた時、外出から戻った真田が基地入り口の扉に寄り掛かり、嶋本達の方を見て妙な顔をしていたことを思い出した。ついでに言えば、嶋本と顔を突き合わせていた盤へ声を掛けた時もかなり力が入っていた気がする―――盤が顔を顰めていたのはそれが痛かったからかもしれない―――。 真田にはあまり付属しなさそうな熟語が頭を過ぎる寸前、盤が自分を呼ぶ声がした。 「大羽君、どげんするとね」 「な、何がじゃ」 「やけん、昼ご飯。出前一緒に取って貰おうと?」 うっかり考え込んでいたらしく、慌てて返事をした大羽へ盤が肩を竦めて、どうやら二度目らしい問いを掛けてくれる。どうやら今から昼食の真田と一緒に、大羽も未だ取っていない昼飯を食べるかどうかと言うことで、どうやら盤は頼むつもりとすれば、お邪魔虫と言う懐かしい名称が頭を過ぎった。 「いや、邪魔するのも悪いし、ワシは……」 「人ここまで引っ張って来とおて先に帰る言うんはどうかと思うばい、言うか邪魔って何と」 「いやまあ、そりゃそうじゃけど―――」 一応気を利かせたつもりだが、盤としては邪魔だとは思っていないらしい。対して真田はと見れば、承諾を望んでいるのかどうなのか、先二回とは打って変わってその仮面の様に動かぬ表情筋のおかげでさっぱり判らない。以前、目を見れば自ずと知れるわ、などと大羽には到底無理そうなことを言ってのけた、今は待機室にいる嶋本を呼び寄せたい気持ちを取りあえず押さえ込んだ。真田のことで、おそらく大羽を邪魔だと思うなら最初からお前達はどうするなどと聞かぬに違いない。ついさっき考えそうになった二字熟語等々は大羽の気の所為で、やはり真田は嫉妬や独占欲が薄いのだろう。 「ワシも食べて帰ります」 本人達がいいと言っているのだから構うまい。決して鈍くはないくせにどこか抜けている大羽へ、気い利かへんわと呆れる関西弁の声は振ってこなかった。 一つの話に2カップリング……いきなり失礼致しました。嶋本さんと盤君の掛け合い漫才もどきが書いてみたかったんですが、思いの他でろでろ長くなってしまい済みません。 05/11/03 |